ALL iz thiik hai! 一社会言語学者のブログ

社会言語学&バイリンガリズム&南アジア系移民 研究を中心とした自分の思索の記録 ALL iz thiik hai とは、訳すと「ALL is オーケーだ」。かなり色々なものをかけたマニアックで深ーい表現。

言語人類学(授業用)YouTube動画3選

講義には何かしら動画を入れるといいというのは、教員はよくわかっている。話や文字や聞きづらくても、動画は一気に集中力を高めてくれる。また、内容がとても印象に残る。

 

だが、適切な動画を見つけるのには、意外と時間がかかる。動画の言語、内容(信ぴょう性・トピック)、レベル、時間。10分以上の動画は長い。特定の学問的トピックについて、教科書的に話す+文字だけの動画を出すくらいなら、自分で講義をするよりも逆効果になりそうで、学生が各自で復習として見たほうがよいとまで思われる。

 

今学期は、「言語人類学」のトピックにおいて、大学の授業に使うのに適切な動画を3件ほど見つけたので、メモしておきたい。3件のうち2件は英語であるが、そのレベルについてもコメントしておいた。

なお、それぞれの概念について、またその概念の講義内容との関連性について、基本知識を理解している前提で紹介している(大学教員向け)。そのため、入門者が言語人類学を(独学で)理解するための適切な動画、というわけではないことを留意していただきたい。

 

過去時制・未来時制、数がないピダハン語

 


A Language without Numbers?

 

英語動画だが、一般向けで短いし、字幕も出るので、比較的理解しやすい動画であると思われる。

Everett氏の講演やインタビューの動画はYouTubeにたくさんあるようだが、ピダハンの人々やピダハン語の実際を短くまとめたこの動画は、講義中にちらっと使って学生の注意を引くのにはちょうどよい。

Everett氏が釣り針を出して、単語を言わせているシーンが、教育的にはハイライトと思われるので、説明はそこを2回ほど繰り返して行ってもよいのではないかと思われる。

 

空間参照枠(絶対的・相対的参照枠)

 


Cultural Diversity in an Age of Fear

 

英語動画。学術的な用語とインテリっぽいユーモアが入っており、いかにも教養あるインテリ層に向けた講演で、そういう点では素晴らしいものである。ただし、一般的な日本の大学の学部生にはちょっと難しそうなので、字幕をオンにしたうえで、要所要所だけ解説した。

 

26:52あたりから、空間についての話になる。初めの部分は、空間に関する西洋哲学的な起源の考察が入っており、これも興味深いが、学部レベルの講義では流したままにして解説なく飛ばすところである。

まず、東西南北を使った絶対的参照枠と相対的参照枠の説明から始まる。

33分のあたりから37分過ぎくらいまで、おきまりの、動物を並び替える実験(+建物の位置を再現)の話になる。丁寧に複数のタイプの実験結果を示しているので、ひとつひとつで止めて確認すると、ロジックが追えてとてもよいのではないかと思う。

ここまでですでに10分程度だが、37分すぎ以降も注目すべきである。絶対的参照枠と相対的参照枠とで、身体化された認知・記憶までが異なる、というものである。このトピックに関しては、実際の実験の動画があり、深く感銘を受けた。

 

なお、空間以外の話(この前およびこの後)もきっと面白いのだろうが、まだじっくり見る時間を見つけられていない。

 

投擲的発話

 投擲的発話とは、木村氏によれば、これまでの(主に西洋中心に進んだ学術界において発達した)「話し手ー聞き手」というコミュニケーションのモデルや会話分析の前提が応用できない、コミュニケーションの形のようである。「のようである」というのは、私は入手困難である氏の書籍を入手できておらず、複数のオンライン上で読める氏の紀要論文(出版年まちまち)からそう読み取っただけだからで、理解に自信がないからである。しかし、授業の動画として、必ずしも上記のようなコミュニケーションが普遍的ではない、という例は、刺激的であろう。

 


bonango

 

その他の関連動画や著書の情報は、木村氏のHPに情報がまとまっている。

共在感覚 ホームページ (kyoto-u.ac.jp)

 

しかし、内容そのものについては、先に述べた通り、著書が入手困難、刊行年(+説明のしかた)が異なる日英語の複数の紀要論文くらいしか入手できず、HPではわかりづらいので、以下の資料が学生にとっても読みやすいのではないかと思う。

 

木村大治 (2010) つながることと切ること―コンゴ民主共和国、ボンガンドの声の世界: 東京外国語大学学術成果コレクション