小山亘『コミュニケーション論のまなざし』(2012年、三元社)
出版社が提供している目次(ここ → コミュニケーション論のまなざし )が詳しくてくらくらする方に、どのような内容の本であるかを、大変おおざっぱにまとめると、次の通りになる。
第1部
- どうして大学では日常生活とかけ離れた抽象的な術語を用いて学術的な探求をするのか
- 一般的に言われる「コミュニケーション」と、コミュニケーション論における「コミュニケーション」の違い
- 「コミュニケーション論」は何を提供してくれるのか
第2部
- コミュニケーション論のベースとなる「言語学」(広く流布している「言語学」の視点とも対照させながら)
第3部
- コミュニケーションを、第2部で解説した「言語学」と結び付けるための概念と装置
第4部
- 著者おすすめの関連書籍
この「知のまなざし」シリーズは、大学生学部1~2年向けの教科書で、第1部を「知のまなざし」、第2部を「知の枠組み」、第3部を「知の回路」、第4部を「知の枠組みと回路のための15冊」と共通の構成になっている。
他のまなざし本(例えば『社会言語学のまなざし』)と比べても、この本はその構成に大変忠実で、丁寧にその構成を利用して書かれた本であるように感じられる。
小山亘氏の他の書籍はみな研究書なので、それらと比べてずっとわかりやすく書かれているこの本は、日本語で読めるシルヴァースティン系の言語学~社会言語学~言語人類学の入門書として最適だろう。私も、早くこの本に出会っていれば…。
とはいえ、わかりやすいけど情報が凝縮されている。学部生は、というより私を含めたいわゆる言語学の回路に慣れ切った研究者は特に、一昼夜には読めないだろう。奥が深いこの本が2000円を切るなんて、本当素晴らしい。
第1部のはじめからすぐコミュニケーション論に突入するわけではなく、どうしてこのような抽象的なことを勉強するのか、というところまで書かれているところが、教科書としては意外とめずらしいだろう。このような問いを発することもなくただ与えられたものを黙々と「勉強」し覚えて試験やレポートに備えるという態度をもった大学1~2年生に対し、著者はこのように授業の導入を図っているのだろう。この橋渡しの論があったのも、とてもよいと思った。
在庫があるうちに、買いです。
本書を読んで、いわゆる狭義の「言語学」に疑問が生じてしまい、そのせいで研究室で居心地が悪くなっても、私は責任をとりません(笑)。
検索したら、談話分析系ブログでも、紹介されていました。
入門書:『コミュニケーション論のまなざし』―学問、大学、言語学、そしてコミュニケーション論への誘い | Discourse Guides