書籍案内:日本語で読める「社会言語学」の教科書~PART 1
社会言語学的トピックを扱っている日本語の書籍は意外とある。
ここでは、 大学の教養科目・専門科目「社会言語学」の
概説の教科書を、古いもの順に、簡単に紹介する。
今回は、パート1として、2001年までの教科書を紹介する。
(もっと新しい教科書が集まるパート2はこちら ↓)
1975 (1974の翻訳)
変異理論社会言語学の古典。トラッドギルはイギリスの研究者(1943- )。土田はイェール大で博士号を取得し、東京大学の言語学の教授となった、台湾原住民語の研究者(1934- )。
現在では2000年に出版された第4版(未訳)があるらしい。
Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society, Fourth Edition
- 作者: Peter Trudgill
- 出版社/メーカー: Penguin Books
- 発売日: 2001/08/01
- メディア: ペーパーバック
- 購入: 1人 クリック: 5回
- この商品を含むブログを見る
1996
田中春美氏は1930年生まれ、田中幸子氏は1937年生まれ。田中 春美 - 研究者 - researchmapで見る限り、社会言語学関連の業績はあまりないように見受けられる。この本を読んでいないので、コメントは控えたいが、2015年にこの二人がまた「社会言語学」の教科書(下記)を執筆しているので、そこからこの教科書がどんなものか予測できるかもしれない。
1996 (第3版1991の翻訳)
- 作者: ブリギッテシュリーベン‐ランゲ,糟谷啓介,原聖,李守,Brigitte Schlieben‐Lange
- 出版社/メーカー: 三元社
- 発売日: 1996/07
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
ドイツのロマンス語研究者によるドイツ語の社会言語学の教科書の翻訳。糟谷(1955- )は言語社会学(と呼んでいいだろうか)、原(1953- )はフランスの少数言語政策を専門、李(1959- )は中国朝鮮族等韓国語に関連する言語社会学~社会言語学の専門のようである。
英語系の社会言語学の教科書と違って、社会言語学の思想と傾向といった、メタ的なところに触れらている。これをお勧めされた学部時代に読んだときは、面白いけどよくわからなかったしうまく応用できなかったが、今パラ見すると、推薦してくれた先生の言う通り、本質的な問題等が挙げられていて面白いと思う。
1997 (1994の翻訳、2000年に未訳の第2版)
- 作者: スザーンロメイン,Suzanne Romaine,土田滋,高橋留美
- 出版社/メーカー: 三省堂
- 発売日: 1997/04
- メディア: 単行本
- クリック: 8回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
アメリカ出身だがイギリスが学術的拠点のピジン研究者ロメイン(1951- )による社会言語学入門。少数言語、アイデンティティ、言語接触、ピジン、多言語使用等に詳しい。イギリスの社会言語学系研究者は社会正義や社会格差是正の問題にも関心を持っていて、 ロメインは移民の言語に関する問題にも目を配っている。質の高い社会言語学の教科書2冊を日本語に翻訳した土田氏の功績を讃えたい(面識はない)。
(英語になるが、2000年発行の第2版はこれ↓)
Language in Society: An Introduction to Sociolinguistics
- 作者: Suzanne Romaine
- 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Sd)
- 発売日: 2001/01/25
- メディア: ペーパーバック
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
1997 (2009年に改訂版)
米国の大学院出身の東(1956- )による、多言語使用、スタイルシフト、コードスイッチングに関して、日本語で書きおろされた初めての本。薄くてささっと読めるので、分野外の知人に貸してあげることができた。しかし、言語学専攻等であれば、これだけでは卒論でさえなかなか研究や思考が進まないだろう。ここまで、「社会言語学」の教科書は変異理論系(トラッドギル)、記述言語系(ロメイン)、言語政策~言語社会学(シュリーベンランゲ)ときたが、ここで米国の語用論~談話研究系の「社会言語学」が登場した。
2001
ロング(1963- )、中井(1962- )、宮治(1962-2001)編集、真田信治氏を含む、日本(半数以上が大阪大学大学院)で教育を受け、日本(+日本語圏)で研究する22人による執筆。私自身は欧米系社会言語学から入ってしまったので、なかなかすんなり入っていけなかったのだが、日本語と日本の例と日本の論のみで、規範意識、敬語、共通語化、言語接触、移民、中間言語、語用論、日本語普及政策など、幅広いトピックを網羅している。今パラ見し返してみれば、(特に日本語・国語専攻の人にとっては)とてもよい教科書である。
パート2では、これ以後の教科書のレビューも載せる予定である。