ALL iz thiik hai! 一社会言語学者のブログ

社会言語学&バイリンガリズム&南アジア系移民 研究を中心とした自分の思索の記録 ALL iz thiik hai とは、訳すと「ALL is オーケーだ」。かなり色々なものをかけたマニアックで深ーい表現。

差別的多言語使用、Mock Spanishとは

Mock Spanish (Hill 1995) の要約

 

- 直訳すると、疑似スペイン語、または嘲笑スペイン語

- 南米原住民を専門とする言語人類学者Jane Hillによる概念

- アメリカの非スペイン語話者(たいていはアングロ・ヨーロッパ系アメリカ人)が、基本的に英語のコミュニケーション内で使う、ちょっとしたスペイン語のフレーズ

 

- Mock Spanishを使用することによって、アメリカの非スペイン語話者は、地元アイデンティティ(ヒスパニック系の影響の強い地域など)や、ユーモアのセンス、気さくさ、おおらかさなどを、直接的指標性(Ochs 1990)によって示す。

- Mock Spanishを使用している人は、そうしたフレーズを使うことに対して、「身近にスペイン語話者がいたので自分も使うようになった」または「スペイン語話者に対する親しみを示している」と述べる。

- 一方で、Mock Spanishを使用することによって、スペイン語話者に対する否定的な人種ステレオタイプ―性欲が強い、政治的に堕落している、怠惰、言語的に障害がある、知能・認知において障害がある―が非直接的指標性(Ochs 1990)によって喚起される。

- こうした否定的な人種ステレオタイプが、すでにヒスパニック系住民をアメリカ国内で社会経済的に下位にとどまらせている。

- Mock Spanishを使用する人は、Mock Spanishの使用には、これらの否定的な人種ステレオタイプは関係ない、と主張する。しかし、これらの否定的な人種ステレオタイプがあってこそ、Mock Spanishがユーモアとなりうるという点で、「非直接的指標性」がかかわっているのである。

- この「非直接的指標性」がかかわっているので、スペイン語話者の当事者は居心地の悪い思いをしても、なかなか容易にMock Spanishの使用を「差別的」と批判できない。

- 米国の非スペイン語話者が。どんなに建前上、民族間の平等や尊重を高らかに謳っていても、このような「非直接的指標性」によって、人種差別的思想や言説が再生産されている。それゆえに、人種差別がなくならないのである。

 

元の論文はここに(アクセス自由)

Jane H. Hill (1995) Mock Spanish: A Site For The Indexical Reproduction Of Racism In American English

http://language-culture.binghamton.edu/symposia/2/part1/index.html

 

Hillによる同じテーマの学術論文2本はここに

 

Jane H. Hill (1993) Hasta La Vista, Baby: Anglo Spanish in the American Southwest.

Critique of Anthropology 13 (2) 145-176. 

http://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0308275X9301300203

 

Jane H. Hill (1995) Junk Spanish, Covert Racism, and the (Leaky) Boundary between Public and Private Spheres. Pragmatics 5:2 197-212. 

journals.linguisticsociety.org

ここからもDL可能

https://blogs.commons.georgetown.edu/ling-487-spring2012-dch52/files/2012/04/Hill-1995-Junk-Spanish-Covert-Racism-and-the-Leaky-Boundary.pdf