ALL iz thiik hai! 一社会言語学者のブログ

社会言語学&バイリンガリズム&南アジア系移民 研究を中心とした自分の思索の記録 ALL iz thiik hai とは、訳すと「ALL is オーケーだ」。かなり色々なものをかけたマニアックで深ーい表現。

メモ:在日ブラジル人若年層のコード切り替え(エレン・ナカミズ)

在日ブラジル人若年層のコード切り替え(エレン・ナカミズ 2000、2003)

 

 

- 「成長期に親とともに日本に移住したブラジル人若年層同士」「日常の話しことばにおいて高度なバイリンガルとして認められ、また同様の社会言語学的背景を持つ話者」=ポルトガル語が母語、「学齢開始時」ないし10代前半から日本の学校で教育を受けた人たち。

- 「彼らはどのような場面でも誰に対しても」CSするわけではない。

- 「同じ集団に属する仲間同士と交わす会話に限って日本語とポルトガル語を自然に切り替える」「これもバイリンガル話者の特徴」「ごく自然な現象であり、文内、文間、発話交換の位置など、様々な箇所に出現する」

- 「すべてのCSに特定の意味を与え、理屈で説明するのは望ましくないだろうが、話者が二つの異なる言語を巧みに操れることは間違いない。それらの言語を顕示的に使うことによって、話題導入、話題転換、引用、伝達内容の強調など、談話における特定の効果をもたらす。また、談話のみならず、以下で述べるように、聞き手に対しても効果をもたらすこともあると思われる」

- 「その意味では、CSは単一言語話者の会話に見られるストラテジーと同等の機能を果たしていると言っても過言ではないだろう。」

- データA群 神奈川県横須賀市在住の三姉妹(自宅、ブラジル人の通う教会における同年齢の友人との教会行事の話し合い含む)

- データB群 京都在住、同じ大学に通う友人同士。

- 日本語とポルトガル語のコード切り替え

- 談話中に果たす語用論的な機能、話者の言語選択を左右する文脈による要員

- 参照ーPeter Auer(1984, 2000)のinteractional framework 

- 「単一言語単一民族の色が濃い社会に暮らすイタリア系話者の言語運用は日本におけるブラジル人話者のそれと共通点が多いと思われる」(注:Auerの研究した在独イタリア系2世の若年層)

- 「アウアのデータでは、研究対象となったイタリア系若年層の中に安定したバイリンガル(balanced bilingual)ではない話者との会話も含まれている。安定したバイリンガルではないというのは、イタリア語能力が低く、ドイツ語の単一言語話者になりつつあるということである。このような状況では、イタリア語とドイツ語を同等に使える話者はそうでない話者にアコモデーションをすることも少なくないという。言い換えると、会話参加者はイタリア語とドイツ語のいずれかを優先し、最終的に会話の基盤言語(base language)を選択する。このような聞き手へのアコモデーションは本稿で対象となるブラジル人若年層の談話には見られない。それは、データとして収集した談話が日本語とポルトガル語を同等に話せる話者同士によるものだからである。」

- 一方が日語、一方がポ語で続けていても、「会話促進の障害になっておらず、それぞれの話者が自分にとって表現しやすい言語を選んでいるように見える」例も。

 

「コード切り替えは、話者の顕示的な言語使用」

「会話促進ストラテジーとしてのコード切り替え」

従来の見方「話者はどちらの言語も完全に習得していないため、情報伝達の手段としてコード切り替えに頼る」

「特にバイリンガルであることを選択した、いわゆるエリートバイリンガルではない移民の場合は、言語習得などの問題が生じうると考えられる。しかし、コード切り替えの原因が言語能力不足であることを強調しすぎると、コード切り替えに対する否定的なイメージと誤った偏見を生み出す結果になる。」

 

会話ストラテジーとしてのCS

Auerの概念を踏襲して分類。

- discourse-related →談話調整のCS

- participant-related → 働きかけのCS

さらに、

- 話し手内面表示のCS

 「参加者と関わりのあるCSの中に話し手自身の考えや感情をより明瞭に表現する手段として用いるもの」

- 「談話調整のCS」

 「絶対、多分おいてあると思う。…Da primera vez, ... ()  あれっ、鍵。Eu fui la em cima, tava la.」日→ポ→日→ポ

 はじめの「日→ポ」は「聞き手との普通のやりとりからナレーションへの移行、つまり会話モードの変化を標識」、次の「ポ→日」は「引用を標識」

「単一言語話者の談話に関しても引用の仕方は重要な研究テーマであるが、以上のようなバイリンガル話者による引用は日本語とポルトガル(ママ)の中間的な位置にあると思われ、彼らの言語生産の一側面を表しているとも言える。」(p. 57-58)

- 働きかけのCS

  三姉妹が、日本語で会話している間、三姉妹の一人に対して「あなたはダメ」という趣旨の発話を、ポルトガル語で行った。

 「おまえ行かない。」「なんで?私も。三人暮らし。」「T, voce nao.」

- 話し手内面表示のCS

 このカテゴリーはAuerの区分になかったはずだが、突然現れている。

 「挿入型CSとはA言語の文法構造に挿入されるB言語の単独項目のことである。すなわち、A言語の文法構造に影響を与えないということである」

 「挿入型CSのうち、名刺が最も多くみられるが、話し手が感情やその瞬間の主観的な印象を表すには形容詞と感嘆詞の使用が顕著である」

 「日本語が基盤言語の場合は、ポルトガル語からの感嘆詞...(中略)ポルトガル語が基盤言語の場合は、日本語からの形容詞が用いられる傾向がうかがえた。」

 

「Cl: Napolitano, なつかしい!No Brasil, nao tinha um sorvete...」

 「以上のような「挿入型CS」は独り言の性質を持っており、話し手が聞き手に話しかけながら、自分自身に振り返っているように思える。」

「上述した三種類のCSはほかの言語の話者による談話にも見られる可能性がある。」「今後両言語の接触から生まれたCSなどの言語現象の、従来の研究との類似点と相違点を明らかにすることが望ましい」

 

「いずれの例でも話者は日本語とポルトガル語を切り替えるとき、それを顕示する目的で使っており、その顕示的な言語使用がCSをストラテジーとしてとらえることを可能にする」

「多種のCSを含んだ談話を、話者に内在している会話スタイルの一つとして認めるべきであろう」

- 「文脈の諸要因」によってCSが起こるが、主に「話題」と「場」