ALL iz thiik hai! 一社会言語学者のブログ

社会言語学&バイリンガリズム&南アジア系移民 研究を中心とした自分の思索の記録 ALL iz thiik hai とは、訳すと「ALL is オーケーだ」。かなり色々なものをかけたマニアックで深ーい表現。

映画「ヒンディーミディアム」の雑感ー英語を話せなくても、インドは「英語国」の自信

2019年9月本邦公開予定のインド映画、「ヒンディーミディアム」(2017)。社会言語学者として見ておかねばと思っていたら、試写会のTwitter抽選に当選し、見られることに。(ダンニャヴァード) 試写会よりだいぶ時間が経ってしまったが、書きかけだったレビューをついにここに。

hindi-medium.jp


「ヒンディーミディアム」とは、「ヒンディー語媒介校(=公立校)」のことである。本作の主人公夫婦は公立学校出身で、英語はあまり得意ではない。主人公夫婦は、一人娘をデリーの名門の「英語媒介校(=私立校)」に通わせたく、そこで奮闘する物語である。

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社会言語学(アメリカの地域方言・人種方言)に関するYouTube動画

 YouTubeには、言語学関連の面白い動画がいろいろアップロードされているはずである。言語学関連のキーワード、特に英語でそれを打ち込んで検索すると、自分で確認するのにちょうどいいくらいの数の検索結果が出てくる。

 

 しかし、どこかの大学・学会での講演の録画がそのままアップロードされていたり(90分はゆうにあって誰かに紹介するには長いし、自分でもなかなか通しで聞けない、しかも音質がちょっと悪かったりする)、学生か語学関係のYouTuberが基本的な概念を5分程度でノリノリ効果音や特殊効果付きだったり、棒読みやテンション高いけどWebcamの割れた音声で説明してくれるものだったり、「これはよかった、もう一度でも見たい」、「これはぜひ共有したい」というものはなかなかないものだ。

 

 今回、高度な言語学・社会言語学の前提知識がなくても楽しめる、一般向けのアメリカの社会言語学(変異理論)関連のいい動画を二つ見つけたので、ここに覚書としておいておきたい。(高度な言語学・社会言語学の知識がなくても、話の内容を理解する英語の知識は十分必要なので、結局日本の大学の授業ではほとんど使えなそうなのだが)

 

 

William Labov (ペンシルバニア大学名誉教授) - 米国の英語における北部方言の変化について

 このショーのホストがどういう人物でどのようなショーを作っているのか全くわからないが、オンライン動画通話で、変異理論社会言語学の父ラボフ教授に質問する。主に、米国北部の五大湖地域で起きている母音の変化Northern Cities Vowel Shift (Northern Cities Vowel Shift - Wikipedia) について説明している。ラボフのこうした古典的なアメリカ方言の母音変化の話は、彼の書籍だと長いし複雑だしで読んでもピンとこないし、きちんと勉強する機会がなかったし、身近に聞いて教えてくれそうな人がいないし…と、いまさら誰にも聞けなかったのだが、ここで勉強できてよかった。

ホストの「同僚の英語が少し変で、なんか彼独自の方言があるみたいなんですが、解析してもらえますか」というものも含めて、すべての質問に真摯に答えるラボフ教授に胸キュン。


American English is Changing Fast

 

 

John Rickford (スタンフォード大学教授) 米国における人種と言語に関連する偏見について(主にアフリカンアメリカンに関して)

 

スタンフォード大学が製作したらしいビデオ。一般の人(?)からの質問に答えるRickford教授のモノローグ。私はアメリカに詳しくないので、この話題にあがっている事例(裁判)がどのようなものかよくしらない。しかし、アメリカ社会において、アフリカンアメリカンの話す方言がいかに軽視され、差別され、アフリカンアメリカンが不利益を被るかという言語学者からの問題提起は、その事例の背景や詳細がわからなくても、よく理解できるだろう。Rickford教授自身も、さりげなく一部いわゆるヨーロピアンアメリカンとは異なる発音で話しているという点で、「(地域・社会・人種)方言話者=信用できない、頭が悪い」というイデオロギーに挑戦しているのではないかと思わせる。


Stanford Open Office Hours: John Rickford

 

 日本語でこうした動画がないか探してみたが、なかなかなさそうなのが残念だ。

 

『婚礼』ー在ベルギーパキスタン人女子高生がヒロインの仏語(+ウルドゥー語)映画

表題の通り、ベルギーで暮らすパキスタン人(パキスタン系ベルギー人というべきだろうか)の18歳少女の「婚礼」に関する映画がオンラインで視聴できたので、観てみた。

 

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書籍案内:日本語で読める「社会言語学」の教科書~PART 2

だいぶ前に、日本語で読める「社会言語学」の教科書をまとめた記事を書いた。

 

rikayamashita.hatenablog.com

前回は、2000年以前のものを集めたが、今回はそれ以降のものを集めた。

それ以降のものを集めたが、再読・レビューが終わらないうちに、松浦年男氏のブログ記事「言語学 初学者のための100冊」(

101冊の言語学書大行進 - researchmap )にも協力させていただいた。松浦氏の記事には、松浦氏の考える「社会言語学」の範疇をあまり外さないようにという忖度があり、ごくわずかしか推薦しなかったが、やはりいろいろな社会言語学の概説書があり、それぞれに個性があり面白く、いろいろ考えるヒントになると思うので、ぜひ全てどこかに紹介しておきたいと思っていた。

全冊のレビューは実は終わっていないのだが、未完でも公開して随時微妙な修正を行っていくのが時代の潮流なので、その軽さにのっていくことにする。

 

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学振特別研究員→大学教員着任1年目で出産ー2つの注意点

産後の体調の経過も、子どもの体調も順調。育児休業から復帰し、先週末から研究会等に行き始め、久々に本務校に。

 

着任からもう妊娠していたのだが、本務校には大変によくしていただいて、ありがたかった。自分の耳に入る範囲内では、嫌味ひとつ言われず、ポジティブな声をたくさんかけてもらった。(面接のときに教員の雰囲気がいいなと感じていたのは、間違ってなかった)

 

自分の身の回りにこのタイミングで妊娠出産した人がいなかったので、若手研究者・大学教員として後進に、あのとき知りたかった「こうだったよ」は山ほどある。

が、2点だけ、重要な点にしぼって、ここに記しておく。

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「あたしおかあさんだから」問題ー「おかあさん」の「感動ポルノ化」と「声」の主体の略奪

昨日あっという間にTwitter上でトレンド入りし、あっという間にトレンドのリストから消えた、「あたしおかあさんだから」というのぶみ氏の新曲の問題。「女性蔑視」が歌詞レベルだけでなく、作詞や歌が男性によるものだというレベルでも、女性を蔑視ないし軽視する姿勢が見られて、不愉快だった。

 

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海外の同業者から驚かれたことー男性の育休・夫が妻の姓を名乗ること

男性の育休

現在、私自身は短い育児休業中だが、夫も出産後から3月末まで、会社にぶつぶつ言われながら4ヶ月半育休を取得した。

夫が4か月半育児休業を取得するということで、海外(ドイツ・オーストリア、香港、スイス)の研究者から、「日本はそんなにpaternity leaveが進んでいるのか!?」と驚かれた。

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ムーミンと「一国家一言語」幻想からのステレオタイプ化

 今年のセンター試験地理Bに、アニメのキャラクター「ムーミン」と「バイキングのビッケ」が登場し、それぞれを「フィンランド語」と「ノルウェー語」と結び付けて答えさせる問題が出題され、話題になった。

 

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