2018年度の社会言語学 学部ゼミを振り返る① 読んだ論文
今年度はご縁あって、早稲田大学教育学部英語英文学科で一年間(サバティカル代替)、学部3年&4年のゼミを持たせていただいた。テーマは「社会言語学」。
さすが有名大学の英語専攻とあって、何人かは単位互換可能・不可能な語学留学もしていました。帰国子女(小学校の時点だったかな)もいました。また、英語圏のテレビドラマや映画や洋楽が大好きという人たちもいました。そんなわけで、英語での授業やディスカッションも当然(そもそもこのゼミの元の先生はその前提でゼミに入れています)。ちなみに教育学部にも関わらず、教職をとっている人は4分の1くらいでした。エリート大学にも関わらず、微妙に英語コンプレックスをもった人たちが多く、留学の制度も整っていない時代で、英語専攻ではない学科出身の私としては、そこからしてだいぶ新鮮でした。
多くの学生は、対照言語学や語用論や意味論等、英日の比較等の概要をそれまでに少し触れた程度で、本格的(?)に社会言語学を学ぶのはほぼ初めてのようでした。そのようなわけで、社会言語学的な考え方を身に着けるのに、当初想定していたよりも導入が必要でした。きっと、中等教育および大学の英語では、社会集団や社会問題より、言語文化の差の知識について学ぶ機会が多かったのかもしれない、と感じました。また、そのようなバックグラウンドにも関わらず、私が「社会言語学」を掲げていたため、履修生には多少苦労させてしまったところもありました。よく「このテーマが社会言語学的かどうかわからない」という声が聞かれました(笑)。当然ながら、自主的に選んだテーマを研究するゼミですので、最終的には履修生本人の自由で、絶対に「社会言語学」でなければならないとまでは強制しませんでしたが。
本来のゼミの先生から、隔年で春学期は「論文(英語)を読む年」と「教科書(英語)を読む年」とに分かれており、本年は前者にあたる、とうかがっていた。私がカバーできる範囲内で、幅広くて身近なテーマ、かつ様々なデータ・方法論を考え、論文を選択した。リストは以下の通り。
Styles in Japanese
- 金水敏『ヴァーチャル日本語:役割語の謎』岩波書店 1章&2章
- 田中ゆかり『「方言コスプレ」の時代――ニセ関西弁から龍馬語まで』岩波書店 1章&3章
- Azuma, Shoji (1997) Speech Accommodation and Japanese Emperor Hirohito. Discourse and Society, 8 (2), 189-202.
Language and the Internet (CMC)
- Tagliamonte, Sali A. and Derek Denis (2008) Linguistic ruin? LOL! Instant messaging and teen language. American Speech 83 (1), 3-32.
- Tagliamonte, Sali A. et al. (2015) So sick or so cool? The language of youth on the Internet. Language in Society 45, 1-32.
Language and race
- Rampton, Ben (1995) Language crossing and the problematisation of ethnicity and socialization. Pragmatics 5:4, 485-513.
Language ideology, YouTube/TV and pop culture
- Chun, Elaine (2017) How to drop a name: Hybridity, purity, and the K-pop fan. Language in Society 46:2, 57-76.
- Furukawa, Gavin (2015) “Cool” English: Stylized native-speaker English in Japanese television shows. Multilingua, 34(2), 265-291.
World Englishes and contact linguistics
- Hiramoto, Mie (2015) Substrate influence on sentence-final adverbs in Singapore English and Hong Kong English. World Englishes 34(4): 636-653.
Bilingualism and interpersonal relations
- Dewaele, Jean-Marc (2018) Pragmatic challenges in the communication of emotions in intercultural couples. Intercultural Pragmatics. 15-1.
Language identity and advertisement
- Hiramoto, Mie (2011) Consuming the consumers: semiotics of Hawai‘i Creole in advertisements, Journal of Pidgin and Creole Linguistics 26(2): 247-275.
Age and gender
- Matsumoto, Yoshiko (2009) Beyond stereotypes of old age: the discourse of elderly Japanese women. International Journal of the Sociology of Language, 2009(200), 129-151.
Politeness
- Kasper, Gabriele (1990) Linguistic politeness: Current research issues. Journal of Pragmatics, 14(2), 193-218.
Language ideology: language textbooks and learners
- Matsumoto, Yoshiko and Shigeko Okamoto (2003) The Construction of the Japanese Language and Culture in Teaching Japanese as a Foreign Language. Japanese Language and Literature, 37 (1), 27-48.
Linguistic landscape
- Leeman, Jennifer, and Gabriella Modan (2009) Commodified language in Chinatown: A contextualized approach to linguistic landscape. Journal of Sociolinguistics 12 (3), 332-362.
Language and gender
- Nakamura, Momoko (2008) Masculinity and national language: the silent construction of a dominant language ideology. Gender & Language, 2 (1), 25-50.
これらの論文すべては15回の授業ではできないので、なんと1回につき2本ずつ。英米圏なら当然かもしれないが、もちろん、現代日本をとりまく様々な大学事情においては「やりすぎ」と言われるので、履修生は2本のうちどちらか(グループ分けした)1本を読んでくることにし、発表は1回だけ1本だけあたる仕組みにした。
なぜこんなに本数を多くしたかというと、既存の教科書以外に、いろいろなテーマが社会言語学でカバーできるんだよ、また方法論やデータも多様だよ、ということをできるだけ示したかった。これで論文の数が半分だったら、テーマもそうだが、データのタイプや方法論も半減してしまう。
やってみた感想としては、相互行為社会言語学(interactional sociolinguistics)が初めてだったようで、その枠組みを用いた論文の理解はあまり十分に導入できなかった。かといって、変異理論(variationist sociolinguistics)も学生が知っていたわけではない。が、変異理論は数字が出てくるので、結果は分かった気になれる。あと、人種についての論文も、うまくいかなかった感じがした。言語接触も微細な情報をしっかり用いて検証するタイプだったので、関心のない人にはちょっと難しかったかな(でもこのように論証するんだよ、のいい例だと思う)。この最後の2本は比較的真面目で熱心な学生が発表担当にあたったから、レジュメ自体はできていたのだが。
まあ、自分も論文2本毎週読んでくるというのは、睡眠が細切れで17時までに保育園のお迎えに行き、片道110分かかる本務校で6コマやりながらやるのは、なかなかタフだたが、個人的には自分で選んだ論文だったから、楽しくやれた。ただ、教育的観点からは、まだまだ改善の余地がある。学生に、発表後に各回のポイントを口頭やホワイトボードで説明したが、次回このような授業をする機会が巡ってきたら、もう少ししっかりとイントロと、知識の応用のテストのしかたを考えようと思う。