ALL iz thiik hai! 一社会言語学者のブログ

社会言語学&バイリンガリズム&南アジア系移民 研究を中心とした自分の思索の記録 ALL iz thiik hai とは、訳すと「ALL is オーケーだ」。かなり色々なものをかけたマニアックで深ーい表現。

社会言語学(アメリカの地域方言・人種方言)に関するYouTube動画

 YouTubeには、言語学関連の面白い動画がいろいろアップロードされているはずである。言語学関連のキーワード、特に英語でそれを打ち込んで検索すると、自分で確認するのにちょうどいいくらいの数の検索結果が出てくる。

 

 しかし、どこかの大学・学会での講演の録画がそのままアップロードされていたり(90分はゆうにあって誰かに紹介するには長いし、自分でもなかなか通しで聞けない、しかも音質がちょっと悪かったりする)、学生か語学関係のYouTuberが基本的な概念を5分程度でノリノリ効果音や特殊効果付きだったり、棒読みやテンション高いけどWebcamの割れた音声で説明してくれるものだったり、「これはよかった、もう一度でも見たい」、「これはぜひ共有したい」というものはなかなかないものだ。

 

 今回、高度な言語学・社会言語学の前提知識がなくても楽しめる、一般向けのアメリカの社会言語学(変異理論)関連のいい動画を二つ見つけたので、ここに覚書としておいておきたい。(高度な言語学・社会言語学の知識がなくても、話の内容を理解する英語の知識は十分必要なので、結局日本の大学の授業ではほとんど使えなそうなのだが)

 

 

William Labov (ペンシルバニア大学名誉教授) - 米国の英語における北部方言の変化について

 このショーのホストがどういう人物でどのようなショーを作っているのか全くわからないが、オンライン動画通話で、変異理論社会言語学の父ラボフ教授に質問する。主に、米国北部の五大湖地域で起きている母音の変化Northern Cities Vowel Shift (Northern Cities Vowel Shift - Wikipedia) について説明している。ラボフのこうした古典的なアメリカ方言の母音変化の話は、彼の書籍だと長いし複雑だしで読んでもピンとこないし、きちんと勉強する機会がなかったし、身近に聞いて教えてくれそうな人がいないし…と、いまさら誰にも聞けなかったのだが、ここで勉強できてよかった。

ホストの「同僚の英語が少し変で、なんか彼独自の方言があるみたいなんですが、解析してもらえますか」というものも含めて、すべての質問に真摯に答えるラボフ教授に胸キュン。


American English is Changing Fast

 

 

John Rickford (スタンフォード大学教授) 米国における人種と言語に関連する偏見について(主にアフリカンアメリカンに関して)

 

スタンフォード大学が製作したらしいビデオ。一般の人(?)からの質問に答えるRickford教授のモノローグ。私はアメリカに詳しくないので、この話題にあがっている事例(裁判)がどのようなものかよくしらない。しかし、アメリカ社会において、アフリカンアメリカンの話す方言がいかに軽視され、差別され、アフリカンアメリカンが不利益を被るかという言語学者からの問題提起は、その事例の背景や詳細がわからなくても、よく理解できるだろう。Rickford教授自身も、さりげなく一部いわゆるヨーロピアンアメリカンとは異なる発音で話しているという点で、「(地域・社会・人種)方言話者=信用できない、頭が悪い」というイデオロギーに挑戦しているのではないかと思わせる。


Stanford Open Office Hours: John Rickford

 

 日本語でこうした動画がないか探してみたが、なかなかなさそうなのが残念だ。

 

『婚礼』ー在ベルギーパキスタン人女子高生がヒロインの仏語(+ウルドゥー語)映画

表題の通り、ベルギーで暮らすパキスタン人(パキスタン系ベルギー人というべきだろうか)の18歳少女の「婚礼」に関する映画がオンラインで視聴できたので、観てみた。

 

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書籍案内:日本語で読める「社会言語学」の教科書~PART 2

だいぶ前に、日本語で読める「社会言語学」の教科書をまとめた記事を書いた。

 

rikayamashita.hatenablog.com

前回は、2000年以前のものを集めたが、今回はそれ以降のものを集めた。

それ以降のものを集めたが、再読・レビューが終わらないうちに、松浦年男氏のブログ記事「言語学 初学者のための100冊」(

101冊の言語学書大行進 - researchmap )にも協力させていただいた。松浦氏の記事には、松浦氏の考える「社会言語学」の範疇をあまり外さないようにという忖度があり、ごくわずかしか推薦しなかったが、やはりいろいろな社会言語学の概説書があり、それぞれに個性があり面白く、いろいろ考えるヒントになると思うので、ぜひ全てどこかに紹介しておきたいと思っていた。

全冊のレビューは実は終わっていないのだが、未完でも公開して随時微妙な修正を行っていくのが時代の潮流なので、その軽さにのっていくことにする。

 

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学振特別研究員→大学教員着任1年目で出産ー2つの注意点

産後の体調の経過も、子どもの体調も順調。育児休業から復帰し、先週末から研究会等に行き始め、久々に本務校に。

 

着任からもう妊娠していたのだが、本務校には大変によくしていただいて、ありがたかった。自分の耳に入る範囲内では、嫌味ひとつ言われず、ポジティブな声をたくさんかけてもらった。(面接のときに教員の雰囲気がいいなと感じていたのは、間違ってなかった)

 

自分の身の回りにこのタイミングで妊娠出産した人がいなかったので、若手研究者・大学教員として後進に、あのとき知りたかった「こうだったよ」は山ほどある。

が、2点だけ、重要な点にしぼって、ここに記しておく。

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「あたしおかあさんだから」問題ー「おかあさん」の「感動ポルノ化」と「声」の主体の略奪

昨日あっという間にTwitter上でトレンド入りし、あっという間にトレンドのリストから消えた、「あたしおかあさんだから」というのぶみ氏の新曲の問題。「女性蔑視」が歌詞レベルだけでなく、作詞や歌が男性によるものだというレベルでも、女性を蔑視ないし軽視する姿勢が見られて、不愉快だった。

 

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海外の同業者から驚かれたことー男性の育休・夫が妻の姓を名乗ること

男性の育休

現在、私自身は短い育児休業中だが、夫も出産後から3月末まで、会社にぶつぶつ言われながら4ヶ月半育休を取得した。

夫が4か月半育児休業を取得するということで、海外(ドイツ・オーストリア、香港、スイス)の研究者から、「日本はそんなにpaternity leaveが進んでいるのか!?」と驚かれた。

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ムーミンと「一国家一言語」幻想からのステレオタイプ化

 今年のセンター試験地理Bに、アニメのキャラクター「ムーミン」と「バイキングのビッケ」が登場し、それぞれを「フィンランド語」と「ノルウェー語」と結び付けて答えさせる問題が出題され、話題になった。

 

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【学振】特別研究員よ、世帯主になれ (3/2追記)

 2月ももう終わりだが、学振研究員には毎年、この時期にやらなければならない仕事がある。

 それは、確定申告である。

 

 学振研究員には、学振の「給与」以外の収入(非常勤講師の仕事など)がある人もいるだろう。ふるさと納税をしている人もいるかもしれない。また、それよりも重要なのは、自分で国民年金や国民健康保険、(人によってはさらに)国民年金基金も納めていることである。それらを所得税から控除してもらうには、確定申告を行わなければならない。

 (まだ学振研究員ではない皆さん、学振特別研究員になると、自動的に国民健康保険の対象者になります。所得税・社会保険の壁を優に超える収入を得ることになるので、家族の扶養に入れません。よって、家族の健康保険からも脱退になります。)

 

 そんな中、概算6年目、最後の学振イヤーにある私が、また国民健康保険でしくじった。区役所に、確定申告用の国民健康保険の納付証明書をもらいにいったら、なんと、昨年分が丸々未納となっていたのだ。

 弁明しておくと、約三か月前、昨年12月初旬に区役所を訪れたときは、全て納付済みだった。すべてきちんと払ってあった。私は初めての学振のとき、銀行口座引き落としにしていなかったので、国民健康保険を滞納した(どの時点で本格的な「滞納」扱いとなるかよくしらないのだが、少なくとも納付書の期限は過ぎていた)。いちいち納付というのは忘れやすいので、ある時からきちんと銀行引き落としにした。

 クリーンだった私の健康保険納付状況が、この3か月で「未納」になったのには、わけがある。国民健康保険で窓口に相談になったのは、これが初めてではなかったので、事態が予測できたはずなのに、すっかり忘れていた。(役所の人も、なんか納付書がどうのこうのというお話を12月にしてくれたように覚えているが、その後すっかり国民健康保険のことは忘れていた)

 

国民健康保険の支払いは世帯主の義務で、請求先も世帯主

 国民健康保険の支払いは、加入者ではなく、世帯主の義務である。請求も、加入者ではなく、加入者の属する世帯の世帯主宛である。収入の多い少ない、年齢、性別、扶養、支払う人、引き落とし口座の名義人、どれも関係ない。私は、過去概算5年間、世帯内で唯一の国民健康保険加入者だった。もちろん、保険料は世帯主ではなく、私が払った。私名義の銀行口座から保険料は引き落とされていた。が、納付義務がある世帯主ではなかったので、納付書や納付証明書は私ではなく、世帯主宛だった。

 

 今回未納扱いになったのは、実は12月初旬に、私が世帯分離をして世帯主になったのが理由である。世帯主が変わると、その年の健康保険料の請求先が変わる既に納付した保険料は、それまでの納付義務のあった世帯主に還付される。そして、その分の保険料は、改めて、新しい納付義務のある世帯主に請求される。

 

 なんとも直感的には複雑な制度だが、理屈はわかる。

 

 こんなことになったのは、実は初めてでなかった。前回の学振(DC1)のとき、世帯主だった父が、1年間海外に単身赴任した。そのため、住民票の上でも、海外へ転出した。海外居住は、一年以上でないと正式に転出にならないらしく、転出が保留になっていたのか、父が帰国してから、変なことが起きた。父がいなかった間は、うちの世帯の世帯主は母ということになり、これまでの健康保険料の請求先であった父からは「過徴収」となり、母に再度「納付令」が出たのである。保険料は、私の銀行口座から引き落とされていたのにも関わらず。そんなわけで、父宛に、還付のお知らせが届き、同時に母宛には納付書が届いた。

 

 今回はどうなったかというと、いつの間にか(おそらく12月に説明があった)私の銀行口座に納付した分が全部還付されたらしい。それから、もう一度新しい請求書で、健康保険を払いなおした。払いなおしたのが、平成29年なので、平成28年度の確定申告では保険料控除が使えない。平成29年度なら使えるそうだ。平成28年度の方が所得が多かったら損だったな…。

 

まとめ

 学振研究員のみなさん。あなたは世帯主でしょうか。もしあなたが、世帯内で唯一の国民健康保険加入者かつ、世帯主でなかったら、今すぐ役所に行って、世帯分離をして世帯主になりましょう。「生計が異なる」と言えば、住所が同じでも、世帯分離の正当な理由になります。学振研究員は、扶養に入りません。社会保険にも入れません。世帯分離しても、デメリットはないはずです。

 その後で、私のようにそのまま放置しておかないで、元の世帯主と相談して、還付金を受け取って、再度納付しに行きましょう。

 メリットもデメリットもないから、世帯主でないままでいたら、このように、二回も国民健康保険の関係で、しくじることになりました。国民健康保険料は、その年に納めないと、その年度の保険料控除として確定申告に利用できません。(翌年度の確定申告で使えますが)

 家族関係は変わらないからいいや、と思っていると、うちの父のように、単身赴任等で海外に転出して、世帯から抜けるかもしれません。また、いろいろな事態で、世帯主に変更が起きるかもしれません。ささいなトラブルですが、ご自身が世帯主になると、こういうちょっとした手間を未然に防げます。