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ALL iz thiik hai! 一社会言語学者のブログ

社会言語学&バイリンガリズム&南アジア系移民 研究を中心とした自分の思索の記録 ALL iz thiik hai とは、訳すと「ALL is オーケーだ」。かなり色々なものをかけたマニアックで深ーい表現。

ジム・カミンズ&中島和子『言語マイノリティを支える教育』(2011年、慶應義塾大学出版会)

 バイリンガリズム、言語教育、相互依存仮説。

 聞いたことあるけど、一体どこの何を読めば詳しくわかるのか。

 カミンズの古い論文を読んでいけばいいのか?でもカミンズは寡作だ。

 私を含め、そんな困っている人のために、中島和子氏がエネルギーを注ぎ込んで翻訳・執筆したのが以下の著書だろう。

 

www.keio-up.co.jp

 

目次はこの通りである。(上記webページより)

言語マイノリティを支える教育

目次

はじめに

序章 「カミンズ教育理論と日本の年少者言語教育」  中島和子
 1. カミンズ教授との出合いとその後
 2. バイリンガル育成理論からマルチリンガル教育学へ
 3. カミンズ教育理論と日本の年少者言語教育

第1章 「バイリンガル児の母語―なぜ教育上重要か」  ジム・カミンズ

第2章 「カナダのフレンチイマージョンプログラム―40年の研究成果から学ぶもの」  ジム・カミンズ

第3章 「マイノリティ言語児童・生徒の学力を支える言語心理学的、社会学的基盤」  ジム・カミンズ
 1. バイリンガル教育プログラムの一般的な成果
 2. マイノリティ児童・生徒の学力獲得の基盤となる言語心理学的原則
 3. マイノリティ言語児童の学力の伸びに関わる社会学的原則
 4. 結論

第4章「変革的マルチリテラシーズ教育学
 ―多言語・多文化背景の子ども(CLD)の学力をどう高めるか」  ジム・カミンズ
 1. 研究・理論・政策・実践
 2. 変革的マルチリテラシーズ教育学の理論的構成ブロック
 3. 学校言語とリテラシー政策議論のために新しく生まれつつある枠組み
 4. 変革的マルチリテラシーズプロジェクトの実践―ケーススタディを通して
 5. 変革的マルチリテラシーズ教育学の実践における教師のエイジェンシー
 6. 結論

第5章 「理論と実践との対話―ろう児・難聴児の教育」  ジム・カミンズ
 1. ろう児の教育に関する課題と論争
 2. ろう教育に適用された理論的原則
 3. 相互依存仮説をろう児に適応することに対するMayer & Wells の批判
 4. ろう児・難聴児の指導上優先的に考えるべきことは何か
 5. 結論

 

 序章は、カミンズの要請により、中島が

人となり、研究者、教育実践家としてのプロフィールを描くこと、1970年代まで遡ってカミンズ理論の流れをまとめて本著で展開される現時点での理論と結びつけること、そして日本の年少者言語教育、特に国内の言語マイノリティを支える教育の現状と照らし合わせて、カミンズ教育理論がどのような接点を持ち得るのか、現場の教員や指導員や保護者にどのような意味があるのか、その意義づけを試みると同時に現場への活用のあり方を考察した(本書、p.5)

、そうである。

 

第1章から第4章は、2001年以降のブックチャプターやジャーナル論文からの「著者」(おそらくカミンズのことを指しているのだろう)による「自撰」、第5章は書き下ろしだそうである。

 

初出は、次の通りだそうだ。

第1章 - Cummins. J. (2001, February). Bilingual children's mother tongue: Why is it important for education? Sprogforum, 7(19), 15-20.  (デンマークでの講演がもと)

第2章 - Cummins, J. (2009). Canadian French immersion programs: What can we learn from 40 years of research? In L. Yu & E. Yeoman (Eds). Bilingual instruction in China: A global perspective (pp. 12-21). Shanghai: Foreign Language Teaching and Research Press. (中国上海での学会基調講演がもと)

第3章 - Cummins, J. (2009). Fundamental psychological and sociological principles underlying educational success for linguistic minority students. In T. Skutnabb-Kangas, R. Phillipson, A. K. Mohanty, & M. Panda (Eds.). Social justice through multilingual education. (pp. 19-35). Bristol: Multilingual Matters. 

第4章 - Cummins, J. (2009). Transformative Multiliteracies Pedagogy: School-based Strategies for Closing the Achievement Gap. Multiple Voices for Ethnically Diverse Exceptional Learners, Vol. 11, Number 2, 38-56. 

第5章 - Cummins, J. (2011) A Dialogue between Theory and Practice: The Education of Deaf and Hard-of-Hearing Students. (これはもちろん書き下ろしなのだが、もちろん原著は英語で、きちんと記されていた)

 

 まず、この序章が素晴らしい。カミンズの研究が育ったカナダ教育界のコンテクストもわかるし、バイリンガル教育に関するカミンズの主な主張がまとめられているし、日本のコンテクストにどのような意義があるか、ということが十分に書かれている。

 また、比較的新しい論文、またマイナーだが狭い専門ではなく広いオーディエンスに向けた論文が訳されているのも、とてもよい。

 この本は、同じカナダの応用言語学ながら、この2点を全く無視した某書(英語教育と文化・人種・ジェンダー (久保田竜子著作選2))とは、大違いで、本当に広く読んで理解してほしいという意志が伝わってくる。中島和子渾身の訳著だ。

 第1章、第2章は、カミンズの考えがわかりやすくまとめられている。第3章、第4章は教育学の色が強く、ちょっと私には読みづらかったが、それでも十分興味深かった。

 

注:某著の個人攻撃をしたかったのではなく、昨年書評を書いた関係で、とても印象に残っていたのだ。(下記)

rikayamashita.hatenablog.com